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2006.02.05

モンポウのピアノ

絶対音感を持ってる訳ではないから自信を持って言うのではない。モンポウのピアノの調律は不思議だ。まるでギターだ。あるいは意図的にホンキートンクを弾いてるのか。モンポウの耳が悪かったとは思えないからこの音を出してたのだろう。出版譜と比べながら聞くと弾き方に物凄く癖がある。それはコルトーがエッセイで書いてたようなショパンの弾き方だろか。モンポウ自身の譜面の書き方は、大袈裟にならないようにさらに簡潔を目指すけれどスクリャービンを強く思わせるもする。骨太な音楽を求めてスタジオに籠もったグレン・グールドがもしモンポウを知っていたらどう弾いたろうか気になるところだ。いずれにせよモンポウ音楽の醍醐味はテンポの揺れと音色。モンポウ自身のピアノには特殊なヴィブラート用のペダルでも付いてたのかと思えるほどに不思議な音色がする。初めて聞いた時は、なんてオンボロな音を出してるのかと憤慨したものだが聞き慣れるとこれが味になる。鍵盤を指で押すピアノアクションの弾くという感触より直接ギターのように弦を爪弾くと言った方が良い打鍵のズレと強く引き絞ったスチール弦の減衰する響き。その美しい音色に幻惑される。

それにしてもこの身振りをモンポウ自身が身につけるのにはどうしたろう。調性と旋法を限りなくぶつけては耳も手も自然とそうなるまでに繰り返し弾いたのだろうか。もちろん全てが同水準の仕上がりではなく年代を追えば微妙に進歩の跡が伺える。

映画「桜の園」の音楽として付けられた熊本マリが弾く「ショパンの主題による変奏曲」、最も規模の大きいモンポウのピアノ作品。そこにはノスタルジックな響きを空間に閉じこめてショパンの精神は現代ではこう響くのだと宣言しているかのようだ。モンポウは小品をいくつか集めて曲集として作品を発表する。シリーズものでは「歌と踊り」と「前奏曲」がある。どちらも何かを追求するというよりか、その時に書き留めておこうと思いついた地元の空気/雰囲気のような印象を受ける。

モンポウを再度知らしめたのは良くも悪くも変人として名高いピアニストのヘルベルト・ヘンクが「MUSICA CALLADA」を弾いたからではないだろうか。
この、4集に収められた28の小品は、モンポウの他の作品とは明らかに異なる表情を見せる。切り詰めて凝縮され象徴とされた音の運び。バッハほどの複雑さではなく多層に編み上げられた音の流れ。調性と旋法の併用。踊りでも歌でも独自の、抜き差しならない身振りを披瀝する。必要最小限に収められた5小節のメロディの繰り返しと、その転調は、その最たるものだろう。

モンポウ音楽の特徴を気が付く範囲で取り出してみたいが、時間の輪郭を考えてみたい。

モンポウの時間の特徴を明瞭にするため、対極にあるバルトークのそれを整理してみよう。バルトークの譜面では演奏時間が指定されてる。速度変化は頻繁に起こるがそれを指定時間で行なうことを要求する。だから、有名なルバート(表情を付けるための音価の微妙な揺れ)は小節内での揺らぎとなる。このスタイルをとりあえず、絶対時間と呼ぼう。
対してモンポウにはルバートの指示はない。モンポウ音楽を成立させるには音楽内容に合わせた速度変化が頻繁に必要だ。それはだから小節で区切られた単位時間が一定ではないということを意味する。音楽の演奏ではよくあることなのだが、モンポウ音楽では単に表情のためだけでなく、時間が任意に伸び縮みすると考えたい。アインシュタインの相対性理論のように、間違いなく各小節の時間は一定ではない、と。
先にバルトークを引き合いに出したのはもしかしたら間違いだったろう。バルトークは都会から録音機を背負って田舎で採取した音楽を譜面に起こしてる内に身に付けた表現技法だろうから。
で、モンポウのそれを相対時間と呼ぼうとするのは、同時並行した時間が進行するテルテリアンやユンを考えるからだ。後者二人の時間感覚はもっと東洋的な仏教的なもののようだが、モンポウの時間感覚にも近代西洋の理性的な感覚とは異なるものを感じる。
モンポウは決して複雑な書法は用いない。並行して多声部を書くことすら滅多になくいくつかのエピソードを順番に展開していくくらいだ。恐らく演奏技術の困難さより表情の特徴を理解する方がよほど難しいはずだ。なので初めは、読めるけど意味が判らない、と思うのではないだろうか。
特に「MUSICA CALLADA」は外気を感じながら弾きたい。自分の内なる音を聞きながら進むうちに、風が吹いて木の枝が揺れたとか、遠くで子供の声がしたとか、雲の隙間から陽が出たの、雨が降ってるの、空気が動かない夏の匂いがする、とか。。。そんなことが気になり始める。
そして伸縮する小節内時間でそれらを表現することになる。アレあの時はこんなことがあったよな、これを抜ければ何とかなるぞ、と、それぞれの小節を慎重に進むのだ。

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