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2006.04.20

三人のピアノ協奏曲ほか

音楽を聞く時の体調は重要で、それによって受ける印象が異なってしまう。
何かの思想を体得してたはずが何も判らない状態へ弾き出されてしまうような感覚を覚えることさえある。
だから聞き直したら印象が違ってたなんてのはざらだ。本も、読むたびに違って読めるのと同じ。自分が変わっていくのだ。

Jose Luis Turina
Einar Englund
Zulema de la Cruz

Jose Luis Turina
今から約10年前に書かれたピアノ協奏曲と、さらに10年前に書かれたヴァイオリン協奏曲。
立ち上る霞のような気配。
それを濃密なロマンティシズムと呼ぶことも適うだろう。とはいえノスタルジーでも親密さでもないけれど。
この作家は通常は楽章とするところをindexとする。ライナーに引用されたスコアの部分を見ると複雑そうなテクスチャが伺えるが、音は例えばヴァイオリン協奏曲の終曲部など打楽器とささやき交わすノイズが鳥のさえずりのように聞こえる。
自分はそこに、映画「チギネルワイゼン」系のくすぐりを感じる。
この打楽器のつぶやきは、もしかすると土俗的な祭りなどでの使用法なのかも知れない。
楽器のつぶやき方が、ふたつの協奏曲では違い、フレーズに手数を足算していく方法がヴァイオリン協奏曲での主要手段だが、ピアノ協奏曲ではそれほど顕著ではなく前進すべき道をひたすらに進む、と行った感じだ。
作曲家の見せる音の身振りからは、フレーズごとに演劇的な役回りを振られているらしく、割り振られたその演技の見事さを堪能すべきだろう。書き分けられた、性格の、表情の、仕草の、音による舞台上の演劇として。
スコアは、咆こうを上げる黒々と渦巻く怒濤の奔流が、垂直に描かれているかのようだが(視覚的な印象として)、この中には、役を演じるいくつかのグループ、楽器の群れが存在し、時間軸に沿って共存しているのだ(シュトックハウゼン「三群のオーケストラのグルッペン」なんてのを想ってみる)。
しかし、この、スコアのエクリチュールのなんという美しさよ!
老舗の大手楽譜出版が現代音楽部門を手放したなんてニュースはざらだが、何故だろう、このスコアのように、見ることに力を感じられるなら、出版の愉悦も観る快楽も可能なはず。現代音楽出版を演奏された音としてのみ捉えるだけではいけないのだろう。
そして、この演奏。初演のライヴ録音なので作曲家立ち合いの下に入念な打ち合せが繰り返されたにしても、見事だ。それぞれの役回りを彫り出して仕立てる、良い腕前だ。

Einar Englund
ピアノ協奏曲1、2番と交響詩「エピニキア」。
他にも録音はあり、聞き比べは(経済的理由から)好きではないが、エリ・クラス指揮なので、リズム解釈を期待した。
1番はまるでバルトークのピアノ技法上にあるように展開する。オーケストレーションも影響されてるのではないか。
エングルンドの独奏曲を弾くかぎり古典様式以外は影響らしきは感じない。戦後のフィンランドに新しい音楽を拓きたいと望み、ショスタコヴィッチに傾倒したものと思っていたので、不思議なことだ。
2番は、前作よりゆとりのある佇まいで、なるほど、かれこれと時間を過ごした経験はこうなったのだなという貫禄のようなものがある。より緻密に仕立てられた音楽。だからこそなのか、古典ぽい厳しさが漂う、それはプロコフィエフなのかも知れない。が、さり気なくバルトークへのオマージュを滑り込ませる。
これは当時のフィンランドの政治的立場を表明するものか。
終戦の記憶が新しい時期に書かれた演奏会用の序曲「エピニキア」は戦争を生き抜いた自身へのご褒美/報告、かな。
(思えば、線的な音型処理、フィンランド音楽に初めて接した時の驚きはこれに尽きた。分厚い和声なんてなくて、ほとんどエピソードのようなモノディの連続。)


Zulema de la Cruz
ピアノ協奏曲1番“Atlantico”(二番目のaにアクセント)
音楽スタイルとしては少し古くなりかけてるのだが、セーゲルスタム/ヘルシンキ・フィルの世界初演なので申し分ないパワーが炸裂する。論理的というよりは力の音楽と呼ぶに相応しい。
音の扱いはかなり大胆(呪術的儀式と呼ぶより、ねぶた祭り)、作曲家は女性なので、あるいは男性である自分には解らない、論理や力の表出のメソッドがあるのかも知れないが、このドライヴ感は見事!
他にも収録されてるアンサンブル作品はピアノ協奏曲に集約できるので割愛する。
スケールそれもグリッサンドを思わせる粘り強い音の並び、と、リズムを刻む音。それらは、何処までも一音を引き伸ばそうとするかのようでもあるが、メロディや動機に基づいている。

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Comments

Jose Luis Turinaを聞き直し、ライナーを見たら、そんな素晴らしい光景は見当たらなかった。
初めて接するものへの畏怖が見せた幻影だったのだろうか。
スコアに対しては、全くの勘違い。

Posted by: katute | 2006.04.22 01:02 PM

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