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2006.07.04

GIYA KANCHELI

久し振りにカンチェリを封切ったが、こちらの集中力は頼りないままに、2枚目の室内楽ではとうとう途切れた。

Diplipito(1997)
Valse Boston(1996)
Time … and again(1996)
V & V(1994)
Piano Quartet in l'istesso tempo(1997)




"Giya Kancheli: Diplipito, Valse Boston" (ECM)




"Giya Kancheli: In l'istesso tempo" (ECM)

Diplipito(1997)
こうした人跡未踏の荒野を往く音楽が大好きだ。脳天直撃ならぬ直結できないか位に思うのだ、細部の全てを聞き漏らすのではないか、ノイズに遮られて聞こえないのではないか、と恐れる余り。
そして眼を閉じて音に集中する。すると音楽は演奏される舞台を意識してないかのように思えてくる。チェロとカウンターテナーとオーケストラ。それぞれの姿態が奪われて、音だけになっているのではないか、と。カンチェリは前衛と呼ばれた音楽の道筋を辿ってみせながらも古典的表現を並列する。音楽に何かを感じるのは人間の主体なのだと言わんばかりに。さすが正統ベートーヴェンの道を往くものだ。聞いている自分が濁ってはいないかと恐れる余り全身が耳となってじっと音に身を傾げながら聞き入るばかり。紡ぎだされる歌は次々と静寂に溶け入り聞き届けることは困難を極めながらも、細々と人跡未踏の地を、どちらとは判らぬ前へと進むのだ、この音楽は。ソリストとギターとピアノと打楽器と、このキャラバンは。

Valse Boston(1996)
先のものと身振りに変わりはない。古典の先人に学んだものを現代の己の技法で解釈し直す。古典解釈におけるポストモダンの技法によるピアノと弦楽合奏のための音楽。To my wife with whom I've never dancedと副題があるように決して躍れない音楽。

ベートーヴェンの交響曲を研究分析したベルリオーズ「幻想交響曲」がパロディにしか聞こえないのは、ゲーテの「親父の遺産は奪い取れ」が半端だったのだろう、真似に終わったからではないか。そしてカンチェリはベートーヴェン自身に留まること無くその先へと進んで、交響曲は7番でエピローグとしたのだろう。

Time … and again(1996)
クレーメルはピアノとヴァイオリンにしつらえている。90年代後半にカンチェリはシューベルトを研究してたのだろう。

V & V(1994)
テープに収められた声楽が民俗風で荒野で炎を囲うような暖かみと気安さがある。

Piano Quartet in l'istesso tempo(1997)
抜き差しならぬカンチェリ音楽であるが、これは何かのモンタージュだろうか。様変わりする情景を判別する困難さを試しているのだろうか。

古典音楽のスタイルを思い浮べてほしい。テーマと展開が決まった様式の中で音楽は休む事無く繰り広げられる。あるいは音楽の時間を音にしなければならない。
そこではまだ音楽は表情しかなかった。
やがて身振りを得て、感情を顕にするようになり、形式以上に情感を表すようになる。

そうした中でカンチェリの音楽は前世紀の文学で問題にされた意識の流れを取り入れているようだ。たとえば思索しながら散歩するとしてカンチェリの音楽は、その道みちに思い浮かぶ想念の断片なのだ。途切れながら次々と様々に浮かぶ思念の数々。その表情の数々の豊かさ。

もしカンチェリが古典の巨匠に学のが不満ならテルテリアンを思い出そう ——— holy noise & silence ——— 故郷の山を畏れ敬う男の音楽思想を。

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Posted by: katute | 2006.07.04 11:55 AM

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