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2008.09.29

デジタル・ナルシスはコレットを読むか

まず断っておくけれど、コレット作品を論じる訳ではない。

西垣通『デジタル・ナルシス』はデジタル世界の推進者として6人のキーパーソンを論じた総括としてp210「5情報機械=欲望媒介項」でジラールの評論に導かれる形で『失われた時を求めて』のマルセルを通じて「プルーストの欲望は「どんな場合でも受けた印象にたいする他人の暗示の勝利」であり、「常に借用された欲望」なのだと」する。
なるほどこれは卓見である。21世紀にプルーストが読まれるという予言に違いない。
その思いは、窪田般彌『ヴェルサイユの苑』p32 ホイジンガ『中世の秋』についての記述に出逢ってさらに強まった。
(ホイジンガは高校生の時に読んだけどまったく記憶に残っていない。そんな読書だったのだ、当時は。)
で、そこにはこうある。
(引用開始)
…中世末期の二つの極端な教会思想として、「無常に対しての、また権力、名誉、享楽の終末に対しての、さらに美の凋落に対しての嘆きと、一方至福のうちに救われた魂への喜び」をあげ、パリのイノサン共同墓地の意味を次のように記述している。

ここでは、屍体は埋められてから九日間で腐り果て骨になる、と言われていた。その後、、頭蓋骨その他の骨はまとめられ、墓地の三方を囲む柱廊の上の納骨倉庫に積み上げられた。こうして積み込まれた何千という骨の山は、すべての人の視線に公然と曝され万人平等の教えを無言のうちに説いていた。

さらにホイジンガはこう書いている−−「十五世紀のパリ人にとって、この墓地はちょうど1789年の陰欝な王室に似ていた」。
(引用終了)

この『ヴェルサイユの苑』はルイ15世とその女たちをめぐるエッセイであり、当時の世相の知っていないと、その後のプルーストらのパリが突然変異のように思われるのではないか。
『失われた時を求めて』は、主人公「私」がマドレーヌ菓子の匂いで記憶を喚起されるプルースト効果と呼ばれるのはつとに有名で。それに「プルーストの作品を、世紀末の美女たちの風俗史、第一次世界大戦終決までの社交界の「クロニック」のようなものとして読んでも、結構楽しめるのだが、それは、大伽藍の扉絵一枚に見とれただけで帰ってきてしまうようなやり方だ。」これは工藤庸子『プルーストからコレットへ』に書いてある読み方の提案。

『失われた時を求めて』は「ソドムとゴモラ」さらにセクシャリテとしての雌雄の順列組み合わせを越えた「スポーツ娘」が登場する作品であり、「グラン・モンド」と「ドゥミ・モンド」と家庭夫人の住み分けが曖昧化し遂に形骸化する物語でもある。
なので西垣通の『デジタル・ナルシス』にデュムシェル&デュピュイ『物の地獄』の指摘「水面の自分の姿の背後に、ナルシスは彼が模倣する他者の表情を見ているのだ。ナルシスは他者に焦がれたからこそ水の底へ飛び込んだのである」を引用する根拠を「常識に反して、ナルシスは自分の姿に恋したのではない」とする。

西垣が『デジタル・ナルシス』あとがきに日付を入れた1991年5月に工藤の『プルーストからコレットへ』が発行されているので、前者が後者を読むことはなかった。
読んでいたら論考が変わっていたろう。
歴史に「もし」はないけれど、両者を接合してみたい。


その感覚として同類項(?)の、急速に失われていく風俗として常盤新平『彼女のアメリカ』を、身体性については能登春男・能登あきこ『心と体を育てるベビーマッサージ
http://www.childbodywork.com/
を参考に上げておく。


プルーストはラスキンに心酔していた、それ以上とも言われている。
『失われた時を求めて』の萌芽とされる「読書について」を序論とした翻訳『胡麻と百合』、これは男女を読書で区分けするためのものだろう。
本来の教育論としてのラスキンの講演との捩じれを正さずに、プルーストの読みに対する試金石としてナボコフ『ロリータ』があるのだろう。

『プルーストからコレットへ』はプルーストからコレットへ称賛の手紙が送られた所から始まる風俗小説の読み方試論。そうして狂乱の20年代に突入しようという頃アンドレ・ジッドから同様の手紙を受け取る。


『プルーストからコレットへ』を読みながら『風と木の詩』や『ポーの一族』を思い出していた。。。

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