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2008.09.18

読了『解読! アルキメデス写本』


ウィリアム・ノエル, リヴィエル・ネッツ『解読! アルキメデス写本』

アルキメデス写本と言うが、実際は、パリンプセストで、アルキメデス写本の羊皮紙を再利用した祈祷書である。
口絵には、何かの焼けこげみたいな写本の写真(下に何があるかなんて全く想像がつかない)。最終兵器であるSLACのX線ビームによる成分毎の映像あり(これはネタバレかな)。
この本は、著者が二人居る。美術館員のノエル氏と、アルキメデス写本の研究者、ネッツ氏である。
二人は、このプロジェクトで初めて知り合って、共同研究する事になった。
全体のベースになるのは、ノエルのウィットに富んだ静かな語り口による写本のドラマチックな来歴だが、アルキメデスの人となり、その数学に迫るのは、ネッツの読み込み力とでもいうべき読解力。積分の概念に到達していたとは!

ノエル氏は、(専門違いの)プロジェクトリーダーになった経緯を語る。この語り口がうまい。
彼は幸運によりパトロンとパリンプセストに巡り会った。そして、専門家の協力を仰ぐべく、呼びかけると、玉石混淆で色々な奴が出てくるが、トス氏という得難いアドバイザ/メンター(国家探偵局)を得て、更に、完全にのめり込んでる研究者(ネッツ氏その他)/主力兵器に巡り会い、さらに、様々なジャンルの技術者/歩兵&工兵隊を得て、プロジェクトを進めつつ、リーダーとして、大変に太っ腹なパトロン/兵站と協力関係を築いて行く。
自分の美術館関係者の他は、すべて公募で集まった、ボランティア達である。ここがスゴい所でもある。
そこで、ノエル氏は専門外ではあるが、アルキメデスの手紙(原本)から写本への歴史の流れを、時間と崩壊から逃れる、写本の壮大なレースに見立てて、シラクサから現代アメリカまで繋ぎ、その来歴を、プロジェクトの進行と共に紹介する。個人的には、雪崩を打って崩壊する時の砂塵の先を、白馬にまたがって砂漠の岩山を疾駆する、アラビアのロレンスみたいな白衣の男を想像してた。

ネッツ氏は、熱狂的な研究者で、アルキメデスの図形にのめり込んでいる。
ここで、質問:『図形って、同じじゃないの?』
答え:『我々が描く図形と、アルキメデスの図形は全く違うものだった』
ここからは、読んでからのお楽しみだ(私の続きにはネタバレのメモがあるので読まないように)。
斎藤教授(本文中では物静かで正統的な紳士として登場する)の解説付なのだから、日本語版の方がお得な気がする。

この本はお薦めする。
ちなみに、初めて、この本に気付いたのは、FACTAの『「解読! アルキメデス写本」のススメ』であった。感謝。

版元に目次がないので、『解読!アルキメデス写本:羊皮紙から甦った天才数学者』 - leeswijzer: boeken annex van dagboekより引用:

目次
[カラー口絵]

はじめに 11

1. アメリカのアルキメデス 15

2. シラクサのアルキメデス 49

3. 大レースに挑む:第一部 破壊から生き残れるか 101

4. 視覚の科学 129

5. 大レースに挑む:第二部 写本がたどった数奇な運命 167

6. 一九九九年に解読された『方法』 —— 科学の素材 195

7. プロジェクト最大の危機 221

8. 二〇〇一年に解読された『方法』 —— ベールを脱いだ無限 255

9. デジタル化されたパリンプセスト 285

10. 遊ぶアルキメデス —— 二〇〇三年の『ストマキオン』 325

11. 古きものに新しき光を 361

エピローグ「広大な宇宙の本」 391

謝辞 408

解説[斎藤憲] 412

監訳舎あとがき 428

参考図書 [436-431]

索引 [442-437]

メモから。何だか判らん。
先達者ハイベアの陰を追って。
51 アルキメデスの功績:無限の数学、数学モデルの物理世界への応用。
57 アルキメデスの没年、家系について知りうる事
65 論文に罠を仕掛けるアルキメデス
67 辺境の地にあって、手紙で自分の成果を知らせていた。これが伝わるだけでも奇跡的だ。
75 間接証明と可能無限の組み合わせ。何故か。実は当時の科学による理性的な縛りなのだが、それは後で。
84 求積問題にしても実無限を知った上で、応用していた衝撃の事実が判明。19世紀を待たずに。
92 謎掛け、8元7連方程式で、最小解でも20万桁の値になるものを、詩の形で残している。
102 ノエルによる描写、崩壊を賭けた時と写本のレース。印刷の発明にも間に合わず。
118 ビザンチンの復興で写本がふたたび作られるように。ポティオスによる『書評』の発明。これで資料の存在は判るようになった。
131 数式は偉大な発明で、自然なものでは無い。数式以前の数学。
135 図に頼るとは。実は、製図ではなく、『概念図』、トポロジー図だつたのだ。
142 パリンプセストを辿るタイムトラベル、複数の写本、類似の写本を比較して、同じ過ちは原文であると判断する根拠、一見、歪んだような図の謎。ネッツが興奮した訳。
152 視覚的な誤りを犯す事なく、論理を厳密に進める手段だった。描き方がおかしく見える螺旋や内側に凹んだ多角形は、その概念を表す。
165 『数学は経験の問題である』ネッツ。
168 十字軍によるコンスタンチノープル陥落の裏側と、写本の過酷な運命。
206 天秤の法則。比例則。三角形重心の求め方。多角形を三角形分割して重心を求める。
208 放物線の切片で囲まれた図形の重心を、比例で求める!
218 手品の瞬間。これは、積分を、算数的に導入したのではないか?
249 綴じを外すのに、1枚平均15日。
249 パリンプセストを解読し始めると、ハイベアの見逃していた部分に気付く。
256 斎藤憲氏登場。
282 ギリシャ人が自らに課した制約により、現代科学を生み出さなかったというネッツの意見。
290 デジタルの元になる数学。マルチスペクトルイメージングによる解析。
330 ストマキオンの説明。爆発する組み合わせの数え上げだった。アラビア語での研究は手つかず。アチェルビによるギリシャ組み合わせ論の解読。パーシ・ディアコニスも参戦。
364 再度の技術の招集(公募)。多彩な技術。
374 X線による(インクに含まれる)鉄分子の分布調査。シンクロトロン放射光。
385 写字生が判明。
391 ネッツによるエピローグ。おさらい。
412 斎藤憲本人による解説。
419 ギリシャで図形は扱うが、量は扱わない理由。無理数を『作らないため』と言って良いかと。それにしても、数学史家は教養豊かだな。文章に溢れ出ている。
まだ、冒険は終わっていない。

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