« 書く(エクリール) | Main | 読了『レボリューション・イン・ザ・バレー』 »

2008.09.01

若きイギリス人パイロットの死

デュラス『エクリール』第二編「若きイギリス人パイロットの死」
翻訳者の女性の口語体がちょっと、な感じだが、デュラスらしい狂気がにじんでる。狂気と感じないとしたらもうあなたは狂っているのだ。そういう世界なのだ、ここは。

 「私の兄は日本との戦争中に死んだ。彼のほうは死んでも入れられる墓はなかった。共用の穴の、前の屍体の上に放りこまれたのよ。考えるのも恐ろしい、耐えがたいまでにむごい話で、その身になってみなければ、むごさ加減はわからない。問題は、屍体同士が混ぜ合わされたということとはまったく違い、その屍体が大量のほかの屍体の総体の中に消えてしまうことなのよ。彼の体、ほかならぬ彼の体が、片言隻語もかけられることもなく死者の穴に放りこまれる。死者全員に対する祈りの言葉はささげられたでしょうけれど。」

 「永遠という言葉が口に浮かんだけど——頼みの綱としてのその言葉は、今後起こる戦争で殺される、あの地域の他の死者たちを全部埋める共同墓穴のことになるんでしょうね。

 ひとつの宗教的礼拝が生まれたことになるのかもしれない。神の代理? そうじゃないわね、神は毎日取り替えられている。神の欠如と絶対に直面しない。

 この件をどう呼んだらいいのかわからない。

 あの数十平方メートルが問題なのよ。あの屍体の山が問題で、お墓の華麗さや豪華さがあの場所の印象を強烈にしている。数が大事じゃない。数なんかほかの場所に、ドイツ北部の平原とか、大西洋岸全域にわたる大量殺戮の地にばらまかれてしまっている。あの子はいつまでたったって彼自身のままよ。しかも彼ひとりきり。戦場は、ヨーロッパのいたるところにあり、遠い存在になってしまった。ここではその逆なのよ。ここではあの子が、戦死者の王になっている。」

 「映画をなにか一本は作るべきかもしれない。過去に回帰し、再出発するという、主題反復の映画。それから、その映画を断念する。その断念するところもフィルムに納める。でもそんな映画は作りっこない。その点はもうはっきりしてる。そんな映画は絶対作りっこない。

 どうしてそういう映画、未知の、今までに作られたことのない映画を作ろうとしないのかしら?」

|

« 書く(エクリール) | Main | 読了『レボリューション・イン・ザ・バレー』 »

日記・コラム・つぶやき」カテゴリの記事

書籍・雑誌」カテゴリの記事

Comments

Post a comment



(Not displayed with comment.)


Comments are moderated, and will not appear on this weblog until the author has approved them.



TrackBack

TrackBack URL for this entry:
http://app.cocolog-nifty.com/t/trackback/12774/42424517

Listed below are links to weblogs that reference 若きイギリス人パイロットの死:

« 書く(エクリール) | Main | 読了『レボリューション・イン・ザ・バレー』 »