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2008.10.24

プライズ

木下玲子『プライズ The Prize −「九つの賞」の背景

なぜ、この賞が選ばれたのか?
少しばかり食べ足りない思いを感じながらも時代を詰め込んでいく筆致に魅せられる。
エピソードの積み重ね。
長田弘のアメリカについてのエッセイ集が記憶をよぎる。
賞が産まれたのも、また選考基準もまちまちだけれど、選ばれた人たちの仕事を知れば感動せずにいられなくなる。
マッカーサー・フェローやジョージ・F・ケナンを誤解してたらしい。知らな過ぎた。
ベルリン国際映画祭も、知れば知るほどにヴィム・ヴェンダースを切手も切れない関係だと強く思えてくる。この歴史がなければヴェンダース映画は作られなかったろう。
ちょうど『都会のアリス』を裏返したような、そんな、賞を巡りながらアメリカを映し出す、ロード・ムーヴィーだろうか。

以下ネタバレ注意(と言っても後書きの引用)。

「ギビングとか市民社会という言葉を日本では日常的に使えますか?」
 受賞者の一人コリン・スブロンがアジア旅行をしたときの経験だと前置きしていった。話題は言語感覚と社会構造ということに発展した。
「中国には、そういう発想すら持てない歴史がありました。ものごとは全て政治的に発想するのが正しくて、損得か人情下で態度を決める。歴史が善悪を証明するという考え方です。外国に触れ合う人が少ないことも影響しているのでしょう。ですからメディアの発達で外国へのあこがれは強まるものの、願望は即物的に解決する。あこがれの商品さえ手に入れさえすれば征服した気になってしまう。精神を知るまでにいたっていないのでしょう。外国留学でも学生は生活向上の手段にすぎず、例えばコンピューター関連は将来性があるから学んでおけば得になるという考え方です。よいわ
るいではなく、考え方がそこから抜けていかれないのが恐ろしいですね」

「昔は英国人も相当にわけのわからないことをしたのですよ」
 そういったのは、老舗出版社の社長ジョン・マレーだった。
「私が若い頃、子弟を大学に行かせる余裕のある家庭では、大学に入る前に半年間ほど外国に出すのが普通でした。夏休みには欧州やアフリカに出し、長い休みにはアジアを旅行させる。卒業までに世界一周までいかなくともかなりの国々を見せておく、それが教養の一部だと考えていたわけです」
 わけのわからないことというのは、アフリカでの体験だ。
「大学入学前にアフリカを四ヵ月かけて旅行しました。驚いたことに行く先々で一般市民の家庭に泊めてもらったのですが、全く謝礼を受け取ってもらえないのです。一泊や二泊ならいざ知らず一と月逗留しても、喜んで世話をしてくれる。そればかりか栄誉だと感謝されるしまつ。英国人の祖先が彼らの祖先に与えた教育制度や法律など諸々への感謝だといわれると、かえって困りました。反対だと思っていましたから。でもそうされるとこちらも立派な英国式マナーで歴史を汚さないようにと注意するでしょう。『ギブ・アンド・テイク』の意味を噛み締めました。」
 ところがこういう話はすぐに伝わる。そのうちに教養のための旅行ではなく、よからぬ考えを持ってのグループや個人がアフリカの人々の「ギビング」精神を利用し始めた。
「合理的な商業主義がはびこっていましたから。その内に外国人までその『ギビング』精神にただのりを考えました。積み上げる努力を省いて、うわまえだけを上手にハネようとする」
 アフリカ側の対応がはっきり変わった。
「悪貨は良貸を駆逐してしまうのです」

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Comments

<ロード・ムービー3部作>
http://www.h4.dion.ne.jp/~wsdsck/contents/wenders2008.html
これを観て思ったのだ、W・G・ゼーバルト『アウステルリッツ』を、特に「さすらい」に。

Posted by: katute | 2008.11.21 at 05:39 PM

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Tracked on 2008.11.13 at 06:47 PM

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