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2008.10.21

読了『宇宙をプログラムする宇宙』


セス・ロイド『宇宙をプログラムする宇宙―いかにして「計算する宇宙」は複雑な世界を創ったか?』(上のオシャレな書影は、左に90度倒してある。版型は普通なのだが、表紙だけこうなっている)


著者の理論は、一言で言って、宇宙が何故このような姿なのかを明かす理論として構想されている。今までの理論は、宇宙がどのように構成されているかは説明出来るが、何故、には答えてくれない。
かなり饒舌な著者である。悪ふざけまでは行かないが、細かなギャグを混ぜていて、面倒になる事がある。
だが、内容はきわめて真面目で、先端的。
あらゆる物理現象が、ある種の計算過程と見なせるというのは、昔のSFにもあったし、古典的な理論でもあったものだが、これが量子コンピュータでなくてはならないことを証明(説明)するのが、この本の主眼になっている。
量子論と、停止問題(不完全性定理)と、アルゴリズム情報量の更に先まで出てくる贅沢な理論である上、実験でも、量子コンピュータを作っている人だから、結構、スゴい。
個人的に驚いたけど、熱力学的な難問であるマックスウェルの悪魔を最終的に退治したのは、つい最近だったって、知らなかったよ。
以下はネタバレ。

抜き書きメモ。
54 ご存知の通り、人間は自分将来の行動を予測出来ない。これが、自由意志と呼ばれるものの重要な特徴だ。<予測不可能な振る舞いは、合理的に振る舞い論理的に行動した時にこそ、予測不能になる、これが著者の主張の一つ。>
73 宇宙は計算している。<しかし、単なる汎用デジタルコンピュータかと言えば、答えはノー。量子コンピュータだ。これが主張の2つ目。>
84 いわゆる、タイプライターを叩く猿の比喩の起源と、本来あるべき姿の違い。本来は、コピュータ端末を叩くべきなのだ。そうすれば、何か、意味のある出力を出すプログラムを入力する可能性もあるし、プログラムを生成するプログラムを入力する可能性も出る。宇宙はシミュレータなのだから。
111 ボルツマンの仮定と、著者の修士論文「無知の拡散」と博士論文「ブラックホール、悪魔、干渉性の消失」。つまり、エントロピーを逆転させることができない事の証明を著者が与えたのは、つい最近の話。ボルツマンの『(出来ると言うなら)じゃあ逆転させてみろ』で今までは反例が無いものと思われていたのだが、実際には部分的に反例が作れる事が分かった。これが(情報が伝染するという言い方で著者は説明する)量子論による結果の1つ。
121 マックスウェルの悪魔を祓い清める。物理学の基本法則は情報を保存する。その結果、気体と悪魔を合わせて考えた情報/エントロピーの総量は、決して減少しないのである。
126 気体中の原子の衝突を使って(汎用の)計算を行うのは、現実的な制約のせいで不可能だが、原理的に原子の衝突が計算出来るという事実からは、気体の将来の姿が本質的に予測不可能である事が読み取れる。停止問題のせいで、...デジタル論理を実行出来るどんな系も、いずれは行方知れずとなる運命にある。<ラプラスの悪魔が出てくるが、こいつが宇宙を計算するには少なくとも宇宙サイズのリソースが必要な上に、量子力学が決定的でないことが問題>
128 ボルへストの邂逅は、面白い。「八岐の園」で描かれた可能性界解釈が量子論にヒントを得たものかどうか、答えはノーだった。物理学が文学作品のアイデアを真似ている事には驚かないと言ったそうだ。
158 (測定問題で)波動関数の他の部分を無視出来るのは、それがもはや我々に影響を及ぼさなくなった瞬間なのだ(グリフィス、オムネス、ゲルマン、ハートルらの結論)。この「干渉性を失った歴史」という考え方は、測定問題を大部分ん解決する。
181 実験の詳細。光子の九十九折りって、想像出来ないが。
190 量子コンピュータでは、アナログ計算とデジタル計算の区別が無い。
195 オートマトン理論の大本とウルフラムによる精緻化。原理はともかく、量子をシミュレート出来ないだろうというのが著者の見解。
197 論文「計算に対する究極の物理的限界」で、どんな物理系の計算能力も、園系が使えるエネルギー量と系のサイズの関数として計算出来る事を示した。1キロ1リットルのすべてを計算に投入出来る場合の上限を出している。ムーアの法則がこのまま続けば、2205年に、この上限に達する筈。
205 地平線(我々が知りうる宇宙の限界)が(宇宙の膨張で)拡大するに連れ、天体が次々に視界に入ってきて、地平線の中で使えるエネルギーの量も増加していく。宇宙誕生以来、地平線の中で実行出来る計算の量は、時と共に増加してきたのである。
225 アルゴリズム情報量。チャイティン。他にもコルモゴロフ、レイ・ソロモノフも、数の数学的規則性を表す概念として。
232 ハインツ・バージェルとの共同研究。複雑性の測定。アルゴリズム情報量ではまだ何か足りない。複雑性の尺度は、31も見つかったが、まだ。記述の難しさ実行する難しさ、組織化の程度を1つにしたもの。
ベネットの論理深度が候補に。「熱力学的深度」を考案。与えられた物理系を生成するのに必要な物理的リソース自体を対象にする。
258 未来における不死の存在について。
260 我々がここまで進化してきたのは、我々の分散情報処理が豊かで複雑だったからだ。
私は、個人的な覚え書きで涙した。
無名な頃、結晶のヒーリングパワーをジョークにして、(精神集中のためのリビングに結晶をおいていた)チャイティンを知らずに侮辱してしまったらしい。
だが、その後、ゲルマンの元で、ポスドクになる。この辺は、向うの学会のあり方が面白い。
そして、ハインツとの幸福な共同研究の途中、一緒に行った雪山で不運な事故でハインツが転落死する。研究に没頭するも、大江健三郎「個人的な体験」の主人公のように「どういう心理的トリックを用いても、一人の人間の死の絶対性を、なしくずしに相対化する事は出来ない」、そう悟ったそうだ。

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Tracked on 2008.10.27 12:16 PM

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