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2009.08.26

読了:ダウエ・ドラーイスマ『なぜ年をとると時間が経つのが速くなるのか 記憶と時間の心理学』

『情報考学 Passion For The Future』のなぜ年をとると時間の経つのが速くなるのか 記憶と時間の心理学を読んで以来、気になっていた本だが、ようやく読めた。
書名や上で紹介されているよりも、もっと広範な、記憶と忘却に関する内容で、それぞれの考察もさらに深いものがあって、読み応えがある。

目次
「記憶は、気に入ったところに寝そべる犬みたいなものだ」
暗闇のなかの閃光―いちばん古い記憶
匂いと記憶
昨日の記録
心のなかのフラッシュバルブ
「なぜ私たちは、逆方向にではなく順方向に思い出すのか」
フネスとシェレシェフスキーの絶対的記憶力
障害の利点―サヴァン症候群
チェッカー名人の記憶力―トン・サイブラントとの対話
トラウマと記憶―デムヤンユクの場合
ワグナー夫妻―四五年間の結婚生活
「楕円形の鏡のなかを私たちへドライブする」―既視感体験について
回顧録
なぜ年をとると時間の経つのが速くなるのか
忘却
私は自分の人生が目の前にぱっと現れるのを見た」
記憶から―「静物と肖像」

相対的な経験の長さは、時間の流れを速く感じることに関係無いというのが、ちょっとした驚きだった(以前、数学者のエッセイで読んでそんなものかと思っていたのだ)。


各章で気になったのは、次のようなこと。
自伝的記憶、これは実は複雑な概念で、調べる以前に、認識されるようになったのがつい最近とのこと。色々なフィルタリング効果の結果でもあるように思える。
小児健忘症、2歳以前の記憶を多くの人は持たない理由とされる。いずれにしても、幼い頃の記憶は、捏造されたものである可能性が高い、自分を外から見ているとか傍証は多くある。
この本では、フロイトについては、生理学的に説明可能なことまで、精神分析的に無理なこじつけをするせいか、あまり、好意的に扱われていないと思う。
最初の記憶に関しては、小さい子供の方が早い時期の記憶を持っている(つまり、10年後には忘れている)。だが、老人は、中年よりも、より鮮明に青年期のことを思い出す。なぜだか、未だに不明らしい。
例えば、(ベドウィ等の)鏡を見たことが無い幼児でも、18ヶ月前後には、鏡の中の自分を認めて、指差し出来るようになる。これは、自分と言う認識を持つと言うことか。
昨日の記録、屈辱的な記憶はなぜ消え去ってくれないのか。防衛的な機序なのか。
心のなかのフラッシュバルブ、記憶する際の機構ではなく、思い出す方の機構と思われ、次第に物語の構造を持つようになるそうだ。
現実と小説の、記憶の人、フネス(ボルヘスの登場人物)とシェレシェフスキー(ルリアの被験者S)の悲劇を考察するが、ここで、絶対的記憶力の他に、共感覚を挙げている。Sはその視覚的連想のせいで話し言葉がうまく理解できなかったというのは確かに。結びの誰もが眠りの中では、この絶対的記憶力という災いを受け入れていると。
ジョン・ラングドン・ダウン医師により報告された、「蒙古症」と「イディオ・サヴァン」(サヴァン症候群)。計算の達人(数週間かかる計算が出来るのにものが覚えられない)やカレンダー計算(特殊な計算方法を身に付けた、というか、拠点日を覚えて、その前後のカレンダーが見えるらしい)について。有名なウィルシャーの図形記憶力。音楽サヴァン達。その原因については、高濃度のテストステロンが大脳皮質の成長に抑制作用をもたらす左右の半球で発達速度が異なるため、左脳への影響が大きい、らしいということに基づく、大脳皮質転換説が説得力がある。ウィルシャーは、現在、副コック長で絵は描ける、ナディアは、話せるようになると共に、描けなくなった。
ナチの戦争犯罪の件は、一見、ミステリー仕立て(容疑者が自分で嫌疑を晴らせず、証拠も証人も不利なものばかり)だが、正しい手続きさえ出来ていれば、別件逮捕で釈放する羽目にはならなかった筈という。ウクライナ人は、スターリン政権をユダヤ人ボルシェビキの陰謀と考えていたとか、この曲折にも歴史的背景があることがわかる。
レミにセンス効果は、20代の頃に経験したことが突出するそうだ。
結核のため34歳で早世したフランスの哲学者・心理学者ジャン=マリー・ギュイヨーの業績を紹介。
心理学的時間が内眼に影響を与えると言う発想は素晴らしい。フラッシュバック記憶のような鮮明な記憶は、近いと思わせる。
ラヴェルは、ボレロの演奏中、指揮者がテンポを上げると激怒した。これは、ボリュームが上がって行くために、速くなって行くように聞こえる錯覚なのだから。
生理時計。暑いと1分を長く感じ(心の中で速く数える)、寒いと短く感じる(ゆっくり数える)。でも、体内には様々な時計があり、年齢でその時計の進行速度は変わるのだ。
望遠鏡効果、レミニセンス効果、老齢による効果(マンガンの実験結果)で時間経過が速くなることの説明はつかない。
隠された記憶。記憶障害の患者でも、実は、以前聞いたことを無意識では覚えている。なぜ、意識に登ることしか思い出せないのか。
死を直前にしたパノラマ記憶。映画が一番良い隠喩だが、一度に全部が見えるところは描写できない。統計から溺死しかかる人が一番多く経験しているそうだ。多くの仮説を挙げて、ショックによる大量のアドレナリン分泌で、脳が極度の活性化され、ストレスや痛み、死の恐怖等で、エンドルフィンの大量分泌が起きて、痛みを緩和し、感覚を抑制し、本能的恐怖の後に、落ち着いた感覚を確信させる。その同じ抑制効果が記憶と時間感覚に関係する脳の部位の働きを止めてしまう。海馬や扁桃、側頭葉等が高速で映像を意識に送り出してしまう。つまり、落ち着いた知覚麻痺の中で記憶の観客になる訳だ。これが最も受け入れられそうな説明。
但し、これも、決定的なものではないと、釘を刺されてしまう。この人は常に懐疑を忘れない。

今、続けて、V・S・ラマチャンドラン『脳のなかの幽霊、ふたたび 見えてきた心のしくみ』を読んでるが、こちらでは、共感覚の発生を脳内のクロス配線の問題と見る説を説明している。ラマチャンドランとは違って、断言しないで、思索を迫る本。

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