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2009.09.22

読了:ジョン メディナ『ブレイン・ルール [DVD付き]』


ジョン メディナ『ブレイン・ルール [DVD付き]』


出版元では、まずは、DVDを見ろとしつこく宣伝しているのだが、図書館にはDVDの貸し出し許可が出ていないとのことで、残念だが、自分はDVDを見ていない。そのうち、DVD見たさに買ってしまうだろう。なお、上のアマゾンのページ(少ないレビューが褒めまくりだが)よりも出版元のNHK出版のページの方が詳しく載っていて大変良い。
この本、意外と話題になってないが、知られていないのか?出版元の知名度のせいか?表紙の巫山戯たオヤジのせいか(著者自身だ)?
いずれにしても、大変に勿体無い。
深い所でも浅い所でも、脳科学と言われる分野で出てきた色々な理論を12のルールとして分類解説し、それをどう活かすかまでを、そのルール自体に則った判り易い情報の可視化/多重化でどんどん詰め込んでくる(ちょっと、饒舌)。
ところで、この人、あるところでコンサルティングしてるとか頻繁に書くものだから、只のコンサル業界の人かと思ったが、そうではなくて、歴とした専門家。誠意ある科学者として、断言を避ける所ではハッキリと注意している。表紙の通りのいいキャラのせいか、色々多方面で活躍しているだけだった。
ここは重要な点で、実際、この著者のキャラなのか、真面目過ぎず、下品過ぎず、楽しい読書なのだが、読み返すと、実は、かなり深い範囲をカバーした結果を教えてくれている。アマゾンのレビューにもあったが、色々な学習法の原理がうっかり網羅されてたりして、他の本を読む際のベースが違ってくるのは間違い無い。少なくとも、今まで読んで少し齧ってきた既存の諸々の理論に対して、自分なりに、筋を通すことが部分的にでも出来たので、自分の考えが、読後に変わったのは確か。

目次
運動―運動で脳力がアップする
サバイバル―人間の脳も進化をとげた
配線―脳は人それぞれに配線が異なる
注意―人は退屈なことには注意を向けない
短期記憶―繰り返しておぼえる
長期記憶―おぼえてなお繰り返す
睡眠―たっぷり眠ればよく考えられる
ストレス―ストレス脳はふだんどおりに学べない
感覚の統合―より多くの感覚を刺激する
視覚―視覚はどんな感覚も打ち負かす
ジェンダー―男性と女性の脳はちがう
探検―人はみな生まれながらのたくましい探検家
この目次(アマゾンの)もいいが、NHK出版の各章のまとめを見た方がずっと良いが、文字じゃないので、引用しづらいな。感想は一口で言えば『強く薦める。騙されたと思って、必ず読むこと。』
この後は、長いメモ。

商品の説明にもあるが、脳の仕組みは複雑で、どうして脳が身体の動かし方を知っているのかすら解明できていないと言う。
この本での主眼は、脳にとって最悪の職場環境、記憶と学習に逆行する学校のカリキュラム、睡眠リズムを無視した生活サイクル、脳では対処しきれないストレス等々を、本来、脳が発達してきた環境を考慮して、なぜ最悪なのかを証し、脳のルールに従ってみようと言うもの。
これから、抜き書き的に、書き散らすので、訳が判らない人は、本書に当たって欲しい。

この本では、学校や職場の改革案が各章毎に提案される。
p23:カウチポテト族を、驚異の老人並みに出来るかと言う実験で、有酸素運動を4ヶ月もすれば、効果が出ることが判ってる。週2、3回のジョギング等の軽い有酸素運動を30分。やめると直ぐに戻ってしまうが。
また軽い運動で脳の障害の治療の可能性もある。
理由らしいものとして、脳の燃料であるグルコースの摂取量(運搬量)を増やすからではないか。
p43:デローチの功績。人間におけるシンボル操作能力。
p50:リチャード.ポッツの変動選択理論。人間の進化は、環境の変動そのものに適応する(抽象)方向に進んできていると言うもの。必要な脳の機能として、知識を貯えるデータベース、そのデータベースを元に即興で行動する能力。ここから、学校は、即興能力を殺していると説く。
p60:「心の理論」の説明。自動的に働くその能力に最も近いものは、読心術と言う。他人の心を読む力を手に入れるために、脳が発達したのではないかと(教師に必須の能力とも言う)。
p75:カンデル(脳が常に配線を変えていることを示してノーベル賞受賞)やダーウィンが示す、野生動物は近縁の家畜よりも脳が15から30%も大きかった。厳しい環境下では、常に学習モードに晒されているらしい。人間も同じ。常に脳を使っていれば。
p84:ガードナー「心の枠組み−多元的知能理論」として、知能自体に少なくとも7つのカテゴリーを提案。数値以外で知能を示す最初一歩。
p85:当代随一の脳外科医、オジェマンの治療風景。患者一人一人の脳のマッピングを調べる。何故か?なぜなら、調べるまで、判らないからだ。一人ずつ違う。75%以上は重要言語野(CLA)を持つ領域を1つしか持ってない。これくらいしか判らない。CLAは人生の早いうちに確立されるらしい。統計的には、CLAは上側頭回にあると良くない、小さくまとまった範囲にある方が良い。
p89:心の理論に長けた人を教師にしよう。個々の生徒の理解度がよく判るからだ。一人ずつに適応したソフトを使ってはどうか、色々なアイデアを組み合わせて使おう、という学校改革案。
p119:50分の講義は、10分刻みで、5つの中心概念を説明。いずれも、1分で説明出来るものにする。10分経ったら、ECS(感情誘発刺激)を仕掛ける。感情に引っかかり、脈絡があって、モジュールとモジュールの間に仕掛ける。
p131:エビングハウスの実験結果。
p138:判っている範囲で言えることは、情報は、脳に入ると、バラバラにされ、至る所にまき散らされ、再配分される。ここで、様々なコード化機能を調べる。学習の瞬間にコードを整地する程よく覚えられる、最初の入力で固定した場所に縛り付けられる、最初のコード化の歳の条件を再現すると検索が容易になる。TEACCHの構造化と同じだ。
p165:長期記憶は、固定されるためには、検索される(思い出される)度に、固定のためのプロセスをやる必要がある、再固定と言う。検索自体は、過去の認識を変える程強力でもある。長期記憶は、図書館的な貯蔵データの再生で、再生検索とも言うものと、状況証拠から推論するものとの2つのシステムからなると思われている。
例として、ダニエル・オファーの実験。高校生に体罰の有無を聞き、34年後に体罰も経験の有無を聞いた。高校生の時には、90%が経験したのに、大人になった時点では30%くらいしか経験が無いと答えた。
p188:数分、数時間、数日、数週間での学習の繰り返しを提案。これは、少しだけ、シュタイナー学校に似ている。数年間での繰り返しに相当するものを、就職直前の大卒者に復習の機会として、大学と企業が行なうよう提案。甘やかしではないのだ。
p194:不眠の実験と、致死性家族性不眠症(20家系程度、中年以降昏睡により死亡する)に関して。
p197:デメントによる対抗過程モデル。「夢を見ることで毎晩静かにつつがなく狂うことが許されている」。この対抗過程は、覚醒中も起きていて、寝る、起きるで戦っている。これが行動のリズムを作る。戦いの中間地点で昼寝をすると、効率が上がる。また、一晩寝ることで、別のアイデアが浮かぶことも実験で明らかに。眠ることで、学習を再生して、再学習出来るが、寝ないと、そのプロセスが実行出来ず、記憶されない。
p221:「学習性無力感」。これこそ、死に到る病ではないのだろうか。逃げ出す方法の無いストレスに晒された犬は、ついには、ストレスから逃れることすら諦めてしまい、学習能力も停止してしまう。人間も同じ。
p231:ストレスの悪者コルチゾールと英雄BDNF。人間は長期のストレスに適応していないので、長期に大量のコルチゾールに晒されると、最終的にはBDNFもやられてしまい、海馬内のBDNFを生産する遺伝子のスイッチが切れてしまう。但し、遺伝的にストレスに物凄く強い人達もいる。
ストレスは、自分で制御出来ないと感じることでストレスになる(生理反応、嫌いである、だけでは有害なストレスではない)。生産現場では制御出来るかどうかだけで、ストレスが減るだけでなく、生産性が上がっている。
結婚生活に関しても同じ。子供が産まれる前後が最もストレスになるので、夫婦に事前に鬱対策の治療を行なうことで、子どもの情緒等の発達が良いと判明。
p263:連合野。ボトムアップで、視覚情報が届き、トップダウン(記憶と照合)で、判断がくだされる。共感覚について。Sについて。複数感覚を受け取ると、認識と想起で効果的。
p271:共感覚が無い人向けの5原則。複数感覚情報の原則(言葉だけより、絵も添える)。時間的接近の原則(関連する言葉と絵を同時に提示)。空間的接近の原則(関連する言葉と絵を近くに置く)。一貫性の原則(異質な材料は除外する)。感覚様式(モダリティ)の原則(動画とテキストより、動画とナレーションの方が良い)。
p275:嗅覚はダイレクトに扁桃体に直行する。
p278:感覚のブランド化。感情は動機に影響を与える。自販機にチョコの香りを出させると、チョコの売上が60%上昇。その他。
p287:網膜から視覚の処理は始まっている。部分的だが一貫性のある短編映画のようなもの(トラック)を網膜のすぐ裏で作って、それを脳に送っている。
p292:シャルル・ボネ症候群。小さい警官や妖精が見えるとかそういう幻覚をみる症状。脳は見えない部分を一貫性に基づいてでっち上げて塗りつぶすから。
p298:「絵画優位効果(PSE)」。視覚情報の方が遥かに、遥かに、記憶され易い。絵を付けると文字だけより6倍以上違う。
p303:『ドナルドのさんすうマジック』。著者に理学への憧れを焼き付けた27分のアニメ。探すべし。
p303:教師への提言、絵の威力を知るべき、コンピュータ動画を使うべき、効果を測るべき、言葉より絵を使うべき、今のパワポのプレゼンを捨てて作り直すべき。
p310:男女の違い。この章は勉強になった。X染色体は、1500以上の遺伝子を持ち発生に重責を担うが、Y染色体は、100以下しか持たず、100万年に5個の割で遺伝子を捨てている(自殺?)。女性はXを2つ持つが、父母のどちらを使うのか?実際には、ランダムだった。更に、X染色体の多くの遺伝子は、脳機能に関わっている!
p322:女性は、男性よりも、自分にまつわる感情的な出来事を素早く強烈に思い出す。ストレスを受けた、女性は子育てに集中し、男性は子育てを放棄する。
p324:女子のコミュニケーションは、目と目を合わせ、大量のお喋りで、つながりを強める。男子は、お互いに見たりせず、一緒に大騒ぎしたりして関係を築く。女子は同じ地点に到着するのを好み、男子は一緒に供するのを好む、かな。
男子は、地位を交渉し、命令を下すのがリーダー。女子は、コミュニケーションで地位を決めるが、秘密を打ち明けることで親友度を作り、親密な仲では地位をひけらかさない。『これをしろ』と、『これをしよう』の違いか。
女性が、『喉、乾かない?』と言ったら、「自分は喉が渇いた」ということで、正しい応答は、共感を示して、飲み物を取って欲しいという意味だとは、気付かなかったよ。
p339:赤ちゃんから始まる仮説検証。魚をやれば、1日生きるが、魚釣りを教えれば一生生きると戦略。そのために、ミラーニューロンが仕込まれたのでは?
p346:エドモンド・フィッシャーとエドウィン・クレブス(1992年のノーベル医学生理学賞)と面識があるそうな。二人とも70過ぎとは思えぬ若さで研究に邁進してた。『二人は、芸術家のように創造的で、ソロモン王のように賢く、子どものように生き生きとしていた。二人は何一つ失っていなかった』私たちは年をとっても世界を探検し続けることができるだろうか『言うまでも無い、次の質問は?』
著者の母親(子どもの興味の赴くままに、恐竜尽くしにしたり、ニーチェを与えたり)も、祖父もまた素晴らしい人たち。
p356:最後の提案。『脳を研究する教育大学を創設しよう』ティーンエイジャーについて教育実習もし、障害児教育もし、家庭との関係も調査するようなカリキュラムにする。
本当に、最後の提案。好奇心の重要性。蟻や植物、小石に興味津々な、2歳児に道の歩き方を習う大人でいよう。

自分なりのまとめ(素人考え)
本書(の見解)とは違うかも知れないが、脳機能局所偏在仮説とでも言うもの。読めば誰でもそう思うと思うが。
例えば、視覚を例にとって、網膜からの入力が、脳で解釈される、という理論が間違っていることを示し、恐らく、網膜から始まった解析機能が、初めに特徴抽出(傾斜角だけ検出とか、色だけ、輪郭だけ、等等)から、徐々に経路に沿って高次機能に流れるに連れ、どんどん抽出され、バラバラにされ、最終的に、連合野に流れ込んで、統合像を形成して、認識が成立して、フィードバックが、末端に投げ返され、という全体の流れを説明する。これが、記憶に関しても、同様の図式で、各感覚器官からの入力が、どんどん流れて行って、連合野を経て、大脳皮質と扁桃体のお喋りが始まり、そのお喋りが終わると同時に、大脳皮質に「記憶される」。この処理が続けざまに実行され、部分単位での穴が見当たらないこと(当たり前だが、無いものは見えない)により、我々は現実を連続的な世界だと認識する。要は、ほぼ同時に、連合野に流れ着く情報が、クオリアを形成し、リアルを創り出す、と思う。だから、処理速度の違う感覚毎に、連合野到着時刻がズレるのだから、錯覚はあって当然、意識自体が、認識の発生を認知するよりも先に、部分はフィードバックを投げていることすらある(というか、現実にそうだ)。また、クオリア成立までの許容範囲が曰く言い難い認識の幅を作るのではないだろうか。連合野での合成が、途切れる瞬間が、注意がそがれた瞬間ではないのかな。


最後に、著者についてを引用する。

著者からのコメント
各ルールごとに、科学的な背景を説明したあとで、実社会で応用するための私のアイデアを提案しています。仕事の能率を上げたり学校での学習環境を改善するために今すぐできることが、まだまだたくさんあります!

著者について
ジョン・メディナ John Medina
 分子発生生物学者として、人間の脳の発達や精神障害の遺伝学的研究を専門とし、研究コンサルタントとしてバイオテクノロジー産業や製薬産業でメンタルヘルスの研究に従事する。また、シアトルパシフィック大学脳応用問題研究所の所長を務め、同大学の共同客員教授も務めるかたわら、ワシントン大学医学部生体工学科でも教鞭をとる。
 2004年には権威ある米国工学アカデミーの客員研究者に任命される。これまでにワシントン大学工学部の年間最優秀教授に一度、メリル・ダウ製薬会社から医師への生涯教育における年間最優秀教員に一度、生体工学科学生会からも年間最優秀教授に二度選ばれるなど、ユーモアにあふれ面白く飽きさせない授業はつとに定評がある。また全米教育協議会のコンサルタントを務め、神経学と教育の関係について定期的に講演をしている。

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