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2009.09.08

読了:吉川 洋『いまこそ、ケインズとシュンペーターに学べ―有効需要とイノベーションの経済学』


吉川 洋『いまこそ、ケインズとシュンペーターに学べ―有効需要とイノベーションの経済学』

同時代に生きた、ケインズのマクロ経済学(有効需要の理論)と、シュンペーターのミクロ経済学(というかイノベーションの理論)の歴史と解説の本だが、それぞれのバックグラウンドから解き明かして、時代の息づかいが感じられる描写が続く、薄いのに、濃密で読み易い一般解説書。 ワルラスを知らず、40代未満には蔓延したのに、ハイエクや同僚世代に総スカン喰らったケインズ、博識と豊かな素養で尊敬されたのに、渾身の論文がサッパリだったシュンペーター、これだけアクの強い天才が火花を散らして、経済と取っ組み合っていた時代。 二人とも日本と関係の深いというも意外だった。 生い立ち、デビュー、生前の評価、その悉くが対照的な二人だが、著者は、この二人の理論に接点を見出し、未来を見るメガネにするべしと言う。 読後の感想を言わせてもらうと、確かに、接点は実りあるものに思える。 不況の動学に関しては、小島先生小野先生の本(一般書)を読んでおいて良かった。 続きは、自分用のメモ。

目次
第1章 いまなぜ、ケインズとシュンペーターか?
第2章 シュンペーターの処女作
第3章 ケインズの処女作
第4章 第一次世界大戦がもたらした転機
第5章 シュンペーターの主著『経済発展の理論』
第6章 ケインズ三部作(1)『貨幣改革論』
第7章 ケインズのロシア行
第8章 ケインズ三部作(2)『貨幣論』
第9章 忘れられた経済学者シュピートホフをめぐって
第10章 世界大恐慌の始まり──二人のファースト・リアクション
第11章 ロバートソンと需要の飽和
第12章 ケインズ三部作(3)『雇用・利子・貨幣の一般理論』
第13章 シュンペーター『景気循環論』──忘れられた大著
第14章 人口減少と経済──天才が考えたこと
第15章 天才二人の経済学
第16章 シュンペーター『資本主義・社会主義・民主主義』
──資本主義は生き延びうるか?
第17章 ケインズ、最後の対米交渉
第18章 日本に与えた影響
第19章 二人の遺したもの

シュンペーターの処女作は、パッとしなかった。ワルラスを最も優れた経済学者と考えていたそうだ。日本への紹介者、安井琢磨も変な人。この時代(1930年代)にも関わらず、数式だらけの経済学論文を発表して(植字工を泣かすなと)注意を受けたそうだ。進み過ぎた悲劇。ちなみに、シュンペーター自身は数学に憧れたのに不得手だったらしく、安井の後書きによればテイラー展開を間違えてるそうだ。
投資財をどう考えるかは、メンガーが解決したと。続くのは、ハイエク。この辺り、何故か、フィッシャーによって完成された利子論の話。実は、利子が決定されるメカニズムは、投資財の効用を考える基礎なのだ。
ケインズは、役人時代の論文、インドの通貨問題(この前に、確率論がある)でメジャーデビュー。この中で、ルピーは金本位制を捨てて、ポンド本位制移行すべしと提言。つまり、金に経済の実体は無いとバラしてしまった。
フランスの恨みで、ドイツに過酷な戦後賠償が掛けられ、これがナチスの台頭を招くのだが、レーニンも言うように、ケインズはこの賠償案に反対で役人を辞める。その時にドイツの経済状態を分析して出したのが、『平和の経済的帰結』。これが大ベストセラーになった。
シュンペーターの論文は、硬い表現で判りにくいそうだ。ワルラスの静態的プロセスでは実際の経済は分析できないと結論。その動的な要因としてイノベーション(新結合)が出てくる。経済の進化という概念の導入と言う点でのみ、マルクスを評価。シュンペーターの発展は、生産側にイニシアティブがあるドラスティックな変化のことで、生産量が増えたとかは、イノベーションでは無い。
重要:『もしこのような願望(金持ちになりたい)が現れたとすれば、それは従来の活動線上の停滞ではなく彼の衰微であり、自己の使命の履行ではなく肉体的死滅の兆候である』と言い、新結合の動機は経済的成功ではないと断言する(そうだとすると資本主義の死滅の原因)。モラルと簡単に言い切れないのは、倫理的な理由では無いからだ。
好況は、新結合が群生的に現れることで発生する、その後に、調整期として不況は必然と言う。これは不人気な学説だ。
ケインズの貨幣論では、正しい分析がされていないと指摘。エラそうにイングランド銀行総裁に献呈している。
ここでも、経営者が高い報酬を得るのは、それに見合った社会的に役に立つ活動をしているから当然だと言う心理的均衡が存在するが、インフレ等で、事業がギャンブルのようになってしまうと、心理的均衡が吹き飛び、資本主義のベースが崩れてしまう。
ここは、二人とも、同じ倫理観を持っていると思われる。
マーシャルの貨幣数量説との決別。有名な、『我々は長期的には皆死んでしまう』の言質が出てくる。今、何とかしなければ意味が無いのだ。
ケインズのロシア革命についての評は、宗教、と言うもの。経済は破綻すると予想。
ケインズの貨幣論の失敗。ハイエクらの反論で撃沈。それまでのウィーン学派の成果に含まれてしまう。また、物価の安定のためには、中央銀行による投資の制御が必要、というのは、当時の常識を超え過ぎていた。シュンペーターの論文を孫引きして賛成したそうだ。日本でもデフレスパイラルの頃に真剣に議論されてた、オープンマーケットオペレーションを使おうとかかなり独創的。小島先生言う通り、偉大なアイデアマン、政策提言者なのだな。
シュンペーターは、不況は、好況の必然的結果で、内在的なものだと言う。不人気だ、これは。何となく、貴族っぽい。
ゾンバルトの「贅沢こそが資本主義の生みの親」説は、それなりに納得できるが。それでも、需要の飽和が起きると不況になる。著者は、需要を、欲望だけに縛り付ける必要は無いと言う、エコ活動だっていいのではないかと。
いよいよ、ケインズの一般理論。
40歳以上は免疫があったが、若い学者や院生は皆信奉者になったそうだ。
有効需要の理論。これだ。
以下略。
wise spendingをケインズは主張。うまく行かないと思う。
シュンペーターは、イノベーションは、本来的に地域的なばらつきがあると。不況で育つ産業があると言うこと。
この観点がケインズと相容れない点。マクロ的でない。
現在の「対称均衡」を仮定した論文は全部、偽シュンペーターと言う。
稼働率の低下、失業も、イノベーションが活発だからと言う。また、不人気な理論。
とは言え、ケインズの財政出動は高く評価するのだ。
不況期の貨幣数量説には、シュンペーターも反対。銀行の貸し出しが資産(不動産とか)の購入に当てられると、マネーサプライは増えるが、GDPは増えない。バブルに過ぎない。
ここで、シュンペーターの理論の弱点が顕になる。コンドラチェフ、ジュグラー、キッチンの3つの景気循環周期の重なりで大きくなったり軽微だったりするのだが(3サイクル合成理論)、そのサイクルが明示されていない。
シュンペーターは、需要の飽和とイノベーションの飽和を結びつけて考察している。著者は、ここに、ケインズとの接点があると。
ケインズの言う通り、いずれ、限界効用は急速に低下する、この需要の飽和を突破するのが、シュンペーターのイノベーションではないかと。
マルサスに関して、ケインズが考えたのは、人口の減少を、サプライサイドの減少と見たこと。
シュンペーターは、文明論的に考察、ギリシャ時代の衰退は、豊かな社会になったための少子化(個人生活の最優先、家族の縮小)が国を滅ぼしたと言う。欧州での19世紀後半の出生率の低下を文明の転換点と考えたそうだ。
1936年のシュンペーターの講演。資本主義は生き延びうるか、答えは、ノー。
人口の減少が投資機会の枯渇に寄与するのではない、少子化は、個人生活の充実を求めた結果だから、その方面の需要(欲望)は新たに発生して新しい投資機会を生む筈。資本主義は、『企業家の消滅』によって、死滅すると言う。この企業家は、ニーチェの超人のようだ。つまり、ケインズのアニマルスピリットと同じものと言える、資本主義が進化すると、合理主義が極度に進み、家族を持つと言う精神は消え、超人・アニマルは消滅してしまうと言う。
ケインズの対米交渉。これは負け戦だったのか。
日本との関係。東京商大(一橋大)が最も先進的だったか。石橋湛山(吉田内閣の大蔵大臣)はケインズの理解者。
ケインズも、シュンペーターも、お互い、気にはしていたらしいが、全く評価していなかったようだ。仲が悪い。
ケインズは、マクロ経済政策で世界中に大きな影響を与えたが、実際には、社会主義とファシズムに挟まれたリベラル。
需要が飽和する時に、ケインズは、政策を提言し(分析を停止)、シュンペーターはイノベーションを主張した。
著者は、両者の統合、プロダクトイノベーション、需要を創出するイノベーションが資本主義の基礎になるのではないかと提案している。

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