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2010.05.10

読了:マーシャ・ガッセン『完全なる証明』


マーシャ・ガッセン『完全なる証明』

この本は、ペレリマンの証明の粗筋を伝えたり、クレイ賞等のドタバタ劇を解説したりするものではない。ペレリマンが、いかにして、その人となり、孤立していたったのかを、本人との取材無しで(一切応じないので仕方ないが)、外堀を埋めるかのように、周囲への取材だけで、再構成したものだと理解した。 この本に限って言えば、日本語版で良かったようだ。

目次

Amazon.co.jp: 完全なる証明: マーシャ・ガッセン, 青木 薫: 本より引用:



世紀の難問を解いた男
パラレルワールドへの招待
創造への跳躍
天才を育てた魔法使い
数学の天使
満点
幾何学の道に
世界へ
アメリカでの研究
その問題、ポアンカレ予想
証明現る
憤怒
完全なる証明

この本の最初の章は、ルジンによる数学少年たちの理想郷(マルクス主義からの防波堤)、「ルジタニア」の創世とその失墜、コルモゴロフらによる再興(数学専門学校)とその限界を描いている点で、貴重な読み物と言える。
個人的には、ソ連の閉鎖された社会の雰囲気が、自分の青春時代を過ごした場所と大きく重なり、息苦しかった。
いわば、世間知らずと絶望と挫折。本流と傍流の数学(者)。こういう世界があった。
これと同じことが中国でもあったのだろう、それで国費留学生たちの現地定着、経済発展に寄る帰還(海亀)という流れを形作ってるのだと思う。
(失脚してしまったルジン(大学時代の教科書の著者!)の後の後継者、数学のモーツアルト、コルモゴロフが、肉体派で、同性愛者だったというのはある意味でショックだったな。例の「健全な精神は云々」の方針の人だったのか)
閑話休題
読み終えた時、何故か、ペレリマンとガロアが連想された、純粋だから?シンメトリーの地図帳から続けて読んだから?脈絡は無いのかも知れないが、孤立というか、絶望が際立った二人との印象があるせいか。
例の中国人二人の件は、あっさり終わって良かった。
最終的には、ペレリマンが何故隠遁したか、が主題なのだけれど、この本には著者の考えが書いてあるのだから、私が言うも野暮だろう。
でも書いちゃおう。著者は、ソビエト数学界の良心ともいうべきもの(ルジン!、コルモゴロフ!に始まる先達たちから数学オリンピックのコーチ、指導教官や同僚等々)が、偶然も手伝って、最善を尽くして、ペレリマンを守護したがため、彼の望む恐竜としての道を選ばせ、純粋ではない数学界の実情を教える機会を失したため、結果的に、世捨て人にしてしまったと言いたいのだろうか。彼の人生に対して、何となく、否定的なニュアンスを感じるのは穿ち過ぎか。
別の考えもあるだろうけれど、人間および人間心理は、複雑な構築物だから、というのが私の感想。もう1つ余計なことを書くと、いわゆる、アスペルガー症候群の傾向もあるように思うのだが、これだけの知性を備えた人だと、他に例が無いように思う。
ところで、著者と訳者の後書きを読むと、重要なことがもう1つある。実は、英語版と日本語版は別物で、日本語版が完全版であるようだ。英語版では、ソ連時代にコルモゴロフらが数学専門学校の設立と庇護で如何に数学を救ったか(ソ連内の数学少年たちということだが)がほとんど記されていないらしい。これでは著者の意図も内面の葛藤や動機(直接は描かれていないが)もサッパリ判らないのではないだろうか。何故、こういう編集になったのかを考える時、人は、英語版の読者の基礎知識と興味を考慮しただけという立場と、そこに政治的意図を読み取ってしまう立場に分かれるのだろう。私には、後者は、意外にも(意外だろうか)、ペレリマンと同じだと感じる。
ついでに言えば、100万ドルを拒否したのは、天才数学者としてのペレリマンではなく、ここで語られているような(ある意味少年としての)彼だと。

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Comments

ペレリマンが現代の世捨て人の典型ではないが、ある種の興味がセンセーショナルに書かせるのだろう。
文明という社会性の下ではカゲがあってはいけないのだろうし。
まぁロシアからソ連と様変わりし更にロシアへと変貌を遂げる社会にあってドアを閉じればバスは通り過ぎて行ってくれるものなのかもしれない。
しかし生活基盤をどう築いているのかは知りたいぞ。

Posted by: katute | 2010.05.18 at 11:22 AM

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